
最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会は3月7日、厚生労働省に対して「低賃金労働者の意向を反映した最低賃金の改定を求める要請」に基づく要請を行います。
あわせて、「中央最低賃金審議会における委員の選出と口頭陳述についての申し入れ」を行いました。
2025年3月7日
厚生労働大臣
福岡 資麿 殿
中央最低賃金審議会会長
藤村 博之 殿
最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会
<連絡先団体>
下町ユニオン
全国一般労働組合全国協議会
全国生協労働組合連合会
郵政産業労働者ユニオン
低賃金労働者の意向を反映した最低賃金の改定を求める要請
= 年二回の改訂で、
早急に1,500円以上の最低賃金の早期実現を求めます =
1996 年以来から 30 年もの間、日本の実質賃金が停滞している。そして急激な物価上昇が労働者の生活を直撃している。米価の上昇指数が、直近では 72.8%(1/31 東京都区部)にもおよび、生活関連品目の異常な物価上昇・高止まりが続いている。賃上げ、最低賃金の引き上げが物価上昇に追いついていない。こうした中、最賃格差の拡大によって、地方からの人口流出は顕著となり地方が疲弊している。労働力不足・人材不足も深刻な問題となっている。
政府は昨年 12 月の「総合経済対策」で、「2020 年台に全国平均で 1,500 円」をめざすことを決定した。低賃金労働者の生活実感からは、「2020 年代に」というのは遅きに失するが、新たな最低賃金の引上げ目標と、その道筋を早急に明らかにすることが求められている。生活苦をなくすために直ちに 1,500 円というのが切実な願いだ。
そのためにはまず、最低賃金近傍で働く人の声を聴き、低所得者層の生活実態に合わせた調査を行って、最低賃金の引き上げを行うようにすべきである。
以下、申し入れる。
1、全国一律 1,500 円以上を早急に実現すること。その道筋を明らかにすること。一昨年に続き昨年も「地方の反乱」と呼ばれる中央最低賃金審議会目安を上回る金額を、地方最低賃金審議会が決定している。徳島の 84 円アップに続き、岩手も 59 円アップを勝ち取っている。中央最賃審の目安 50 円に対し、27 県が上積みし加重平均(51 円・5.1%)を押し上げている。このことはすでにA~Cランク制破綻していると言わざるを得ない。地域間格差を無くし、全国一律を求める流れはもはや止まることの無い流れとなっている。
労働者の生計費は、車の所有などを含めると全国ほとんど変わらず、また消費者物価の上昇率はCランクが高めに推移している。24 年目安公益委員見解の「エ、各ランクの引き上げ額の目安」に有るように、「各ランクの目安額について、下位ランクの目安額が上位ランクを上回ることは理論上あり得る」との観点に立ち、直ちに全国一律 1,500 円以上の道筋をしめすべきである。
(1)時給 1,500 円に至る道筋が明確に示されていない。ただちに、どのような水準・内容・テンポで引き上げていくのかを示されたい。
(2)地域間格差を無くし、直ちに全国一律最低賃金制度に向けた検討を行うこと。その際、全国一律に近づけるための手立てがどのようになされるのかについても示されたい。また、地域間格差は、率でなく額での地域間格差縮小を目指すこと。
2、最低賃金の改定は年2回以上行うこと。そのための予算を確保すること。非正規雇用労働者などの最低賃金近傍で働く労働者の賃金改定は、4 月よりも 10 月に行われることが多い。6 月調査にもとづく賃金上昇データの第4表①②③は、この点で小零細企業従業員の賃金を反映していない。したがって、10 月に最低賃金近傍で働く多くの労働者の賃金が上がっているならば、賃金改定状況調査を 6 月と 12 月の年 2 回行うことについては合理的な理由がある。
また、そもそも大企業と中小零細企業の賃金格差を前提とした最低賃金の決定の仕方は、同一労働同一賃金の原則に反するものであり、賃金格差を固定化するとの考えに基づくものであり容認できない。
また、生計費の指標となる急激かつ深刻な物価上昇が続いている状況では、年 2 回の改定の検討が必要である。「地域別最低賃金の引上げ率は消費者物価上昇を下回ってはならない」、すなわち、「一定程度上回らなくてならない」ということが極めて重要にも関わらず、現実はそうなっていない。なかでも最低賃金近傍で働く労働者にとって影響の大きいのは、「頻繁に購入する品目」指数である。物価高の激しい進行の下で、中央最低賃金審議会が最新の経済データを元にして引き上げの議論をすることは、審議会の責任であると考える。
(1)「類似の労働者の賃金」として、賃金状況調査は、30 人未満の中小零細企業(製造業は 100 人未満)を調査対象としているが、最低賃金の影響率が年々上がる中で、指標として適当なものではなくなっている。最低賃金の影響率が 1~2%であった時から、現在では、20%を超えている。最低賃金近傍の労働者は、非正規雇用として大企業にも多数存在する。中小零細企業の労働者の賃金引き上げ率を「類似の労働者の賃金」とみなすには無理が出ている。
急速に拡大する大手企業の非正規雇用労働者の賃金など、対象事業所を拡大し調査すべきである。また、賃金中央値や平均値を指標とすることを検討されたい。
(2)最低賃金の改定を年 2 回、10 月と 4 月に行うこと。10 月に昇給する労働者が年々増加しており、一昨年の 29%より増加し昨年は 33%を超えている。賃金状況調査を 6 月だけでなく 12 月にも行うこと。そして、そのための予算を確保すること。
(3)消費者物価指数の参考基準を低賃金労働者の生活実態に合ったものにすること。生計費の指標となる物価上昇率については、「持家の帰属家賃を除く総合」指数・「基礎的支出項目」指数を採用するだけでなく、「頻繁に購入する品目」指数を最重視すること。またこの間、諸団体が行っている生計費調査を参考にすること。
「頻繁に購入する品目」指数は、他の指数と比べても数段に高く、物価の高止まりが続いています。こうした物価高騰が続く中では、少なくとも年二回、つまり半年に一回は最低賃金の見直しを行うことは、極めて当然といえる。
3、最低賃金は、生活保護水準を上回るようにすること。
2014年以降は、「生活保護との逆転現象はなくなった」というのが中央最賃審議会の見解だが、「生活保護との整合性」に対しては大いに問題がある。比較方法についてはいろいろな議論があるが、比較対象を「若年単身者」(18~19 歳の単身者)の生活保護基準としている点は重大な問題だ。日本政府も批准しているILO131号条約やILO135号勧告では、最低賃金水準の決定にあたり考慮すべき要素として「労働者及び家族の必要」を挙げている。この条約に基づけば、比較対象とするべきは少なくとも「ひとり親世帯」の生活保護基準とするのが適当だ。
また、2013年の国連・社会権規約委員会は「日本の最低賃金が最低生存水準及び生活保護基準を下回っている」と指摘し、日本政府に対して「労働者及びその家族が人間らしい生活を送る」ことが可能となることを確保する観点から、最低賃金の水準を決定するに際し考慮する要素を再検討することを要求する」と勧告している。
(1)最低賃金の水準は、ILOの基準に基づき、「労働者とその家族の必要」との観点で生活保護との比較を行い、ひとり親世帯の生活保護基準を上回るものとすること。
(2)最低賃金と生活保護との整合性は 2007 年改正の趣旨である。時間給を基本とする最低賃金と月収を基本とする生活保護とをどのように比較することが整合性なのか問題点は多い。ILO131 号条約は「最低賃金は労働者と家族の必要な生計費」と規定している。生活保護との比較では「成人ひとりと一子」をモデルにし、最低賃金水準は、生活保護では考慮されていない公租公課(税・社会保険など)を上乗せして、ひとり親世帯の生活保護水準の 1.3 倍を上回るものでなければならない。
4、最低賃金引き上げの妨げとなる要因を排除するとともに、要因排除に伴う不利益に対する援助・支援を行うこと。
(1)社会保険税率の負担軽減など、中小企業保護政策を推進すること。いわゆる「生産性向上」をリンクさせる事無く、中小企業補助・援助制度を進めること。
(2)最低賃金引き上げ分を価格転嫁できるようにし、発注者に受諾義務を課すこと。また、発注期間中の改定も行えるようにすること。
5、最低賃金審議会のすべての審議を公開するとともに、最低賃金に関する多様な意見を反映できる民主的な審議を行うこと。
(1)地方最低賃金審議会の審議を民主的に行い、最低賃金に関する多様な意見を反映できるものにすること。
(2)金額審議に関係する部分について、以下のような場合は一般的に記録すべきかどうか答えること。
①公労、公使の二者協議
②労使委員のみの会議
③公益委員見解を作成するために開かれた公益委員のみの会議
④金額審議を行っているが、部会長から記録を止めるように言われた場面
(3)公労使三者が集まって議論を行う議事を公開しないケースがある。議事の公開が議論になるのは目安審議における議論のプロセスが見えづらいことが原因であり、審議の透明性や納得感を高めることが求められていることを理解していない対応である。都道府県労働局に情報提供を繰り返し行い、また、公開状況について調査すること。
(4)専門部会において二者協議だけで金額審議を進行させ、再開した全体会議においても審議の内容を報告せず、不透明なケースがある。議論の過程を明らかにした議事進行を行い、三者協議を公開にした趣旨を生かすよう、情報提供を繰り返し行うこと。
(5)審議会において意見を述べることを希望する者がいる場合は、直接陳述させる運営を心がけさせること。また、意見陳述者と質疑応答を積極的に行わせること。
(6)審議委員自らが事業場に出向いて視察するなど、外部からの多様な意見を得る努力をさせること。
(7)議事録や議事要旨の公開が速やかに行われていない。特に、異議申出に間に合うように専門部会の議事要旨を公開すること。ホームページなどでいつ公開されたか調査し、実態を把握すること。
(8)都道府県労働局は、議事録の情報公開請求に対して不開示にしすぎる傾向があるので、指導すること。
6、中央並びに地方の最低賃金審議会委員の選出にあたっては、最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会が推薦する者を任命すること。
すなわち、生活困窮者の支援等を行っている団体の出身者、及び社会保障法を専門とする学者、中小零細企業労働者・非正規労働者・外国籍労働者を数多く組織する労働組合の関係者、最低賃金近傍で働く労働者などを最低賃金審議会委員に任命すること。
以上
中央最低賃金審議会における委員の選出と口頭陳述についての申し入れ
最低賃金は近年、注目を浴びています。 最低賃金は、すべての労使にとって大きな影響があるため、労使間において多様な意見があることは事実です。しかし、その中でも最低賃金近傍で働く労働者 の意見は最も尊重されるべきであり、直接に議論に参加できるよう審議委員として任命すべきです。
また、地方最低賃金審議会では、一つの方法として口頭陳述を実施して、審議委員と陳述者の間で質疑応答が行われ、議論を深めています。中央最低賃金審議会においても、口頭陳述の機会を設け、審議委員との質疑応答ができるように取り計らうことを求めます。
記
1、中央最低賃金審議会の選出にあたっては、最低賃金大幅引き上げキャンペー ン委員会が推薦する者を任命すること。
2、第1回中央最低賃金審議会において、最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会から推薦する者1名に対して口頭陳述させること。
(1)意見書の回覧の案内とは別に、口頭陳述の実施について諮ること。
(2)陳述希望者を傍聴者とは別にその場で待機させておき、いつでも陳述できるように準備すること。
(3)陳述時間は、質疑応答を含めて15分から20分程度を目処に設定すること。
(4)その他委細は、あらかじめ会長と打ち合わせておくこと。