最低賃金大幅引き上げキャンペーンは10月24日、地域別最低賃金を再度改定する諮問を行うよう厚生労働省に対して要請しました。
物価高が続いている中、10月から発効された最低賃金は全国加重平均961円でしかなく、基礎的支出の物価上昇率に満たず不十分なものであるため、年内に中央最低賃金審議会に対して、最低賃金を再び改定する諮問を行うよう求めたものです。
それに対して、厚生労働省は、「制度上、再度の諮問が禁止されているわけではないが、3要素(労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力)を踏まえて決定する原則があるので、現状はデータを見ている段階」と述べるにとどまりました。
2022年10月3日
厚生労働大臣
加藤 勝信 殿
最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会
<連絡団体> 下町ユニオン
全国一般労働組合全国協議会
全国生協労働組合連合会
郵政産業労動者ユニオン
2022年度10月発効の最低賃金の再改正を要請し、
直ちに中央最低賃金審議会へ諮問をすることを求めます。
本年度の地方最低賃金改正され、2022年10月中旬には全て発効の運びとなっております。全国平均で961円になることが決定しています。しかしこの改正は、最低賃金近傍の労働者とって最も影響のある、基礎的支出項目の物価上昇率(4月4.5%)にも満たないまったく不十分なものでした。
最低賃金法第12条には「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならない」とあります。つきましては、2022年8月から10月の物価上昇率を勘案し、年内に最低賃金法第12条に基づき、中央最低賃金審議会に地域別最低賃金引き上げの再改正を諮問するよう要請します。
2022年10月1日改正のベースを決めた、中央最低賃金審議会の目安答申、特に公益委員の見解について検討します。
公益委員見解の要旨は以下の通りです。
(ア)賃上げについては、賃金改定状況調査結果第4表の継続労働者に限定した賃金上昇率が2.1%になっている。ただし、この数値は今年4月以降の消費者物価の上昇が十分に勘案されていない可能性がある。
(イ)労働者の生計費については、消費者物価指数の「持ち家の帰属家賃を除く総合」が、今年4月に3%になっており、とりわけ「基礎的支出項目」といった必需品的な支出項目については4%を超えている。このため、最低賃金に近い賃金水準の労働者の購買力を維持する観点から、基礎的な支出項目にかかる消費者物価の上昇も勘案し、3%を一定程度上回る水準を考慮する必要がある。
(ウ)通常の事業の賃金支払い能力については、企業の利益や業況がコロナ禍からの改善傾向がみられるものの、賃上げ原資を確保することが難しい企業も少なくないことに留意する必要がある。
(エ)各ランクの引き上げ額の目安については、前記ア、イ、ウを総合的に勘案し、今年度の各ランクの引き上げ額の目安は3.3%を基準として検討することが適当である。地域間格差への配慮の観点から少なくとも地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を上昇させる必要も考慮し、A・BランクとC・Dランクの差を1円とすることが適当である。
中央最低賃金審議会の公益委員見解は、上記のように①今年度の賃上げは物価上昇率を反映していない、②最低賃金近傍の労働者にとって、物価上昇率は「基礎的支出項目」が最も重要な値ではあるとしながらも、最低賃金の引き上げでは「持ち家の帰属家賃を除く総合」の物価上昇率を採用し、結論としてA・Bランク31円、C・Dランク30円を引き上げの目安としています。
一方、公益委員見解の中では、地方最低賃金審議会に対する期待として『今後、公益委員見解の取りまとめに当たって前提とした消費者物価等の経済情勢に関する状況認識に大きな変化が生じたときは、必要に応じて対応を検討することが適当である。』としています。そして、公益委員見解を取りまとめるに当たって参照したデータをみると、「消費者物価指数の推移」は本年4月まで、「消費者物価指数の基礎的支出項目指数の推移」などもせいぜい本年6月までのデータを参照したに過ぎません。
当時を超えて現状は、まさに消費者物価等の状況認識に大きな変化が生じている緊急事態です。急激物価の上昇は、労働者の生活を直撃し社会問題となっています。
帝国データバンクが9月1日に公表した「食品主要105社」価格改定動向調査によれば、今年1月から8月までに1万642品目の値上げが行われました。9月には2424品目、10月にはさらに6532品目の値上げが計画されています。各品目の価格改定率は平均で14%に達するとしています。まさに記録的な「値上げの秋」になるという予測が出ています。更には、年末までには、2万品目は優に超える値上げの嵐が待ち受けているとの報告が出ています。
こうした中で海外の動向も見過ごせません。フランスでは、毎年1月の最低賃金の改定と別に物価スライド制が導入されており、最低賃金改定時から物価が2%上がると、最低賃金は自動改定される仕組みになっています。これにより2021年10月には物価スライドにより最低賃金は2.6%引き上げられました。さらに、2022年1月の定例の改定では0.9%引き上げ、2022年5月には再び物価スライドで2.2%引き上げられています。
ドイツは、最低賃金を2021年7月に1.1%引き上げ、2022年1月には2.3%引き上げ、2022年7月には6.4%引き上げています。さらにEUの推奨値である賃金中央値の60%の最低賃金を達成するため、2022年10月には14.6%引き上げ12ユーロとすることが閣議決定されています。
これまで実施したことのない年度途中の再改定諮問には大変なハードルがあることは理解します。しかし、政府も「物価・賃金生活総合本部」を設置し、足下の原油価格や物価の高騰による国民生活や経済活動への影響に緊急かつ機動的に対応し、賃金の上昇を通じてコロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものとすべく、関係行政機関の緊密な連携の下、総合的な検討を行うとしています。最低賃金近傍で働く労働者は蓄えもなく、物価高騰の中で、食費にも事欠くような厳しい冬を迎えようとしています。物価高騰の中、低所得者層の生活を守ることは重要な政策課題です。かえすがえすも、最低賃金法第12条には『厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならない』とあります。物価高騰という緊急事態の中で、最低賃金改定制度を柔軟に運営していくことが求められています。
今年度の最低賃金改定に対して、前提とされていた「消費者物価等の経済情勢に関する状況認識に大きな変化が生じ」ています。2022年8月乃至10月の物価上昇率、特に、最低賃金近傍で働く労働者に影響を与える基礎的支出項目の上昇率を勘案し、年内に最低賃金法第12条に基づき、中央最低賃金審議会に地域別最低賃金の再改正を諮問するよう要請します。